なぜ寒いのに山に登るのか?~公務員猟師の冬休み~
福知山市の獣害対策専門員のモチヅキです。
これを食べたら季節を感じるなぁ~っていう食べ物ありますよね。
モチヅキの場合、春ならタケノコ、夏ならスイカ、秋はサンマです。
では冬の代名詞となる食べ物は何か…?
世間一般ではカニやブリ、牡蠣などの魚介類やお餅なんかをイメージされる方が多いかもしれません。
静岡出身のモチヅキは「みかん」も冬に欠かせない食べ物です。
(小学生の時は肌が黄色くなるまでみかんを食べてました…)
しかし、この仕事(獣害対策)をするようになって、
私の中で冬を代表する食べ物第1位が更新されました。
それでは発表します。
みかんよりもカニよりも好き。わたくしの好きな冬の味覚は…
ドゥルルルルルルルルルル…ブン!
お鍋ですっ!! なんのっ?!
もちろん、言わずもがな。鍋といえばぼたん鍋ですよね?
野菜でも魚でもそうですが、自分で育てた野菜、自分で釣った魚は時間と労力とコストをかけている分、買ってきたものよりも数段美味しく感じますよね。(個人の主観です)
え?イノシシとか手に入らんし、買ったら高いし、豚肉でいいんちゃう?
っていう無粋なツッコミを入れた方にこそ、脂のたっぷり乗った冬のイノシシ肉を食べていただきたい。豚とは似て非なるものです。(個人の主観です)
初めてイノシシ肉を食べた時に衝撃を受けたのが脂のうまみとその食感!
脂なのにサクサクと不思議な歯ざわりで、ジューシーなのに全然もたれないのであっさり食べられます。
今でこそ一般家庭でイノシシ肉は馴染みが薄いと思いますが、肉食が禁じられていた江戸時代には「山くじら」という隠語を使ってまで食べられていたとのこと。
京都府のイノシシの狩猟期間は11月15日~翌年3月15日まで。
厳しい冬の寒さを乗り越えるため、この季節のイノシシには脂がたっぷりのります。
特に広葉樹がたくさん生えているような地域では、カシやブナなどのドングリをたくさん食べて天然のイベリコ豚状態となったイノシシがいます。
誰が言い出したか分かりませんが、その中でも特に上質なイノシシ肉が獲れる地域として静岡県の天城山、岐阜県の郡上八幡、兵庫県の丹波篠山が3大猟場と言われています。
冬に脂を付けて美味しくなるイノシシを求めて猟師さんは鉄砲を担いで山に向かったり、獣道にわなをかけたりします。
まぁ狩猟は獲物を獲るのが目的なんですが、純粋に自然の中を歩くのは面白いです。
普段の生活では見られない自然の美しさだったり、見たことない植物や動物との出会いだったり、デスクワークでは得られない経験がたくさんあります。
とくに猟期の前半はスーパーでは見ることの無いたくさんのキノコに遭遇して面白いです。
ちなみにモチヅキがキノコに詳しいのではありません。グーグル先生が偉大なのです。電波が拾える環境ならばGoogleレンズで色々調べられるのでありがたいですよね…いい時代になったもんだ…。
※野生のキノコを食べる際はよく調べたうえで、「自己責任」でお願いします。(念のため)
巻き狩りと呼ばれる猟犬を使った集団での猟では、食べられそうなキノコを探しつつ、山の中の獣の通り道まで向かって待ち伏せします。
息を殺して自然に溶け込み、猟犬が獲物を追い立てて自分の前に来てくれることを祈って待ちます。
残念ながら目の前まで獲物が来たからといって弾が当たるかどうかは別問題です…
猟期後半は雪が降ったり、家を出るのもはばかられるような寒い日でも山に向かいます。
静岡に居た時はほとんど雪の降らない地域だったので、雪の中で獣の足跡を追って猟をするのはとても楽しく感じます。
もちろん相手も必死に生きていますので、簡単には獲れません。
私のような公務員ハンターは週末しか山に入れませんので、狩猟期間の土日すべて出猟できても30回程度…
少ないチャンスを活かして獲れる確率を少しでもあげるため、先輩方からノウハウを教えてもらったり、狩猟期間外のシーズンに射撃場に行って練習したり、努力します。
でもまぁ決して負け惜しみは無いんですが、頑張っても、たくさん山に入ってもなかなか獲れないからこそ熱くなってしまうものかもしれません。
ただイノシシ肉が食べたかったら暖かい家の中からネットで注文したらいいだけなのに、寒い冬に重り(銃)を背負って、滑落の危険もあるのに山登りするなんて酔狂な行為をするのはなぜなのか…?
山の中で獲物を待ちながらボーっとそんな事を考えていると、中学生の夏休みに、なぜか担任の先生におすすめされて読んだパンセ(パスカル著)という本の一説が頭に浮かびます。
パスカルさんは「人間は考える葦である」という言葉やパスカルの定理、圧力の単位である「ヘクトパスカル」に名を遺す皆さんご存知の16世紀のフランスの数学者・物理学者・哲学者です。
パスカルさんは、パンセの中で、兎狩りに行く人々の目的は兎をとることではなく、狩りに夢中になって退屈な日々から目を背けるための気晴らし(暇つぶし)をすることなのだと言っている。
確かにそんな気もするし、シンプルにただ美味しい肉を食べたいだけな気もする…自分から出る音だけが響く静かな山の中で、深いようで浅い思考を巡らせていると、別の場所で仲間がイノシシを獲ったという無線が聞こえてきました。
そんなしょうもないこと考えて目の前の獲物に集中してないから逃すんや!と怒られそうなので話を本筋に戻します。
自然相手なので毎回は難しいですが、作戦がはまると獲れるときはたくさん獲れます。
1度に3体も獲れると嬉しいですが、解体が大変なので嬉し悲し…
イノシシの解体は慣れている方でも結構時間がかかります。
(以下猟師さんが自家消費用に解体するときの参考写真です)
まずは皮を剥ぐ作業から。慎重かつ大胆にスピーディーに行います。
言うは易く行うは難し。
部位ごとに切り分けたらみんなで役割分担して、手際よく骨抜きや精肉を行います。
モモ肉、ロース、バラ肉と部位ごとに切り分けてみんなで山分け!
スライサーとか使って薄切りにしたらもうすでに美味しそう!!
こんなイノシシですが、全国的に豚熱(CSF)という豚や野生イノシシに感染する伝染病が蔓延しており、福知山市内でも野生イノシシの数が大幅に減少したと思われます。
猟師さんが自分で獲ったイノシシを自分で食べる分には問題ありませんが、国が感染した個体の発見地点から半径10キロ圏内の「感染確認区域」を対象に、捕獲したイノシシの流通を自粛するよう求めているため、残念ながら福知山市内で獲れたイノシシを業者さんからジビエとして購入するのは難しい状況となっています…。
一狩猟者としては獲って楽しい食べて美味しいイノシシが減ってしまったのは残念ですが、「獣害」という観点から見ると、防除柵を壊して畑に侵入する野生イノシシが減ったことで農作物被害が減少しているので、農業をされている方にとっては喜ばしい状況です。
イノシシ食べたいけど知り合いに猟師さんがおらず、お裾分けが期待できない…という方は、豚熱感染エリア外のジビエ処理施設から購入することができます!
ふるさと納税でイノシシ肉を扱っている自治体もありますので、気になる方は探してみるのもいいかもしれません。
嬉しいことにnote見たよ!と言ってくださる方もちらほら出始め、趣味の狩猟の様子も書いて!とリクエストしていただいたので今回は公務員猟師のただのプライベートでした!
▼これまでのモチヅキの記事はこちら