私が移住して、全国初の獣害対策公務員になるまでの話
福知山では聞きなれないモチヅキという苗字。漢字で書くと「望月」。
満月という意味の風流な苗字ですが、若き日のモチヅキ少年はこの苗字が嫌いでした…
なぜかって? 私が生まれ育った静岡では望月姓が多すぎてありふれた苗字だったからです。
(中学生の時は1クラス32人のうち、10人が望月姓でした…)
家の周りはお茶畑とミカン畑。学校からは世界遺産の富士山が見える。
そんなちゃきちゃきの静岡人である私は、京都の大学を卒業後、地元の静岡に戻って静岡県庁に奉職。
一般行政事務の公務員として社会人生活をスタートしました!
同期や上司にも恵まれ、公務員生活をスタートした私が強く印象に残っているのが、「フットワークの軽い公務員であれ」という当時の上司の言葉。
このキーワードを忠実に行った結果、今の自分があるといっても過言ではありません。
もともと釣りや登山などのアウトドアが趣味だったこともあり、話のネタとして軽い気持ちで「わな猟の狩猟免許」を取得することに。
免許取得後、試しに家の裏山にわなをかけてみると…なんと数日後にイノシシがつかまりました! なんというビギナーズラック…
こうして、趣味は? と聞かれて「狩猟」と答えて不審がられるようになって数年が経ちました。
庁内の掲示板を見ていたら、「有害鳥獣対策の担当職員募集」の文字を視界の隅で見つけてしまいました。
見れば伊豆半島の最南端にある「静岡県 賀茂郡 南伊豆町」という人口約7,500人の小さな町で、有害鳥獣対策担当の職員を募集しているとのこと。
「せっかくとった資格も活かせるし、南伊豆ってなんか南国っぽい響きだし、面白い経験ができそうだし手を挙げてみるか!」と軽い気持ちでエントリー。これが人生のターニングポイントとなりました。
職員数7,000人以上の静岡県職員の中で、まさか自分の異動希望が通るわけないという気持ちでいましたが、よもやよもや。
県庁から車で3時間もかかる町で獣害対策をしたいという意向のある人は私だけだったらしく、あっさり市町交流制度で南伊豆町に派遣されることになりました。
単身赴任で南伊豆に派遣されたモチヅキ。
町の人の反応は…というと、「県から派遣されてきて、1年で帰ってしまう都会の若造に獣害の何が分かる!」といった冷たいものでした。
駆除活動には狩猟免許が必要なこともあり、行政が獣害対策を進めていく上で、猟友会など、狩猟免許を持った方々の協力は必要不可欠。
しかし、町役場の職員も短いスパンで人事異動があるため、信頼関係を築くのがなかなか難しいようでした。
歓迎ムードのない状況を打開するためにどうすればよいか…?
虎穴に入らずんば虎子を得ず。
モチヅキは熟考の末、南伊豆のベテラン猟師さんに弟子入りすることにしました。
え? なんで? と親や友人など色んな人からツッコミを受けましたが、有害鳥獣対策とは何たるかを学ぶために、実際に駆除活動を行っていただいている猟師さんのことを深く知る必要があると思ったのです。
公私問わず毎日のように師匠のもとを訪れ、駆除とはどういうものか? 駆除の現場にいる人はどのようなことに苦労しているのか? ということを一から教えていただきました。
50年猟師をしている師匠は毎日山に入り、獣道の位置まですべて把握。
イノシシの足跡を見て、それが昨日の足跡なのか、一昨日の足跡なのかを即座に見分け、広い山のどこに獲物が隠れているかをピタリと言い当てることができるほどの凄腕ハンターです。
師匠の教えを受けるうちに、いつの間にか憧れを抱き始めたモチヅキ。
気づいたら銃猟の狩猟免許と銃の所持許可を取得しており、ハンターの仲間入りを果たしました。
(県庁の同期からは、飲み会のネタの領域を超えていて笑えないと呆れられました…)
仕事に関係するからといって、自分で免許を取得して、積極的に山や田畑に出向く県職員というのはなかなか変わり者だということで、役場の人も、地元の猟師さんたちもびっくりしたようです。
自分自身も農作物被害の原因となるシカやイノシシの生態や、猟師さんの日常を身をもって学ぶことができ、有害鳥獣対策という仕事が楽しくなり、やりがいを持って取り組めるようになりました。
せっかく現場に出ることの多い部署に配属されたのだから、フットワーク軽くたくさん現場に出ることを自分の中でテーマにしました。
呼ばれたらもちろん、呼ばれなくても色んな所へ自分で赴き、地元の方と顔を合わせて話すということに取り組みました。
南伊豆町在任中には、大型台風が直撃して倒木で通れなくなった林道を片っ端からチェーンソーで切って整備したり、壊れた漁港施設の復旧のために測量をしたり、傷んだ町道のコンクリート舗装を直したり、漂着した鯨の死体の処理をしたりなど、獣害対策の業務以外にも色々な経験をさせてもらいました。(とにかく地域の事は何でもやる課でした笑)
町への派遣期間が終了し、県庁に帰った後も、思い出すのは南伊豆町での強烈な思い出の数々。
デスクワーク中心の県職員としての業務よりも、住民との距離がとても近い市町村での仕事の方が自分に向いているのではないか?
成果が表れづらい行政の業務の中で、効果が目に見えて表れ、被害が減って喜ぶ農家さんの顔を直接見ることができる獣害対策の仕事はとてもやりがいのある仕事なのではないか?
そういった思いを強く持つようになりました。
そんな折、京都府福知山市で有害鳥獣対策の専門人材の募集があるということを小耳にしました。(当時、全国初だったそうです)
生まれ育った静岡を離れ、縁もゆかりもない福知山に移住するかどうか。
異動を重ねて広範な業務を担当するゼネラリストである県職員から、獣害対策のスペシャリストである専門員に転職するかどうか。
夜しか眠れないぐらい悩む日々が続きました…
妻に相談したところ「ええんちゃう? 面白そうやし」とあっけないくらい気持ちよく背中を押してくれました。
「フットワークの軽い公務員であれ」という今の私の行動指針となっている言葉をいただいた当時の上司に、福知山に移住するという話をしたところ「静岡を飛び出すほどフッ軽であれなんて言ってない!」と呆れられました。
静岡から移住してきました! っていう話をすると、多くの方から「こんな田舎までよく来たね…不便でしょ?」と言われますが、程よく都会で、程よく田舎な感じは静岡と全く変わらないので全然違和感はありませんでした。
初めましてのはずなのに、旧知であるかのように話をしてくる人が多いなど、福知山の人のフランクさには初めは驚きましたが、おかげ様ですぐに馴染むことができました!
未だに福知山弁(ちゃった弁?)は使いこなせませんが…
こうして福知山で、任期なしの獣害対策専任公務員となったモチヅキ。
静岡県→南伊豆町→福知山市での経験を評価していただき、農林水産省の「農作物野生鳥獣被害対策アドバイザー」に認定されました!
まだまだ若輩者ですが、福知山の獣害対策を進めるために、今後も様々な取り組みを進めていきたいと思っています。
つらつらと今に至るまでの経緯を書いてきましたが、それじゃあ獣害対策の公務員って普段どんな仕事してるん? っていう話は次回に続きます。