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鬼のまち福知山がクリエイティブ誌に登場。全国からなぜか約2000本のキャッチコピーが集まる。

2月3日は節分。その前日、2月2日は「おに(02)」が2つ並んだ「鬼鬼の日」〜!!!……と近年絶賛打ち出し中の京都府福知山市に、ある鬼コラボを持ちかけてくれた公庄仁さん(コピーライターなど)の寄稿をお届けします。

こんにちは。公庄(ぐじょう)と申します。東京・青山と福知山を往復しながら、ブランディングやコピーライティングの仕事などをしています。

突然ですがこれを読んでくださっているみなさんは、「鬼のまち」と聞いてどこを思い浮かべるでしょうか?

「もちろん鬼の哭く街、カサンドラ! 拳王が支配する監獄の街でしょ!」という「北斗の拳」好きおじさん達には無縁の内容ですので、そっとページを閉じていただければと思います。

そう、鬼のまちといえばやっぱり福知山ですよね。市外の方はいがいに思うかもしれませんが、福知山は、鬼とゆかりの深い街なのです。

有名なのが、大江山の鬼退治伝説。これは源頼光や、絵本でも有名な金太郎こと坂田金時らが、大江山に棲む鬼、酒呑童子を倒したという逸話で、大ヒット漫画「鬼滅の刃」で例えれば、日本の歴史上初の「鬼殺隊」と言えるかもしれません。

僕が好きな福知山の鬼スポットはやはり、世界でも珍しい鬼の博物館です。

日本の鬼の交流博物館
博物館の近くの吊り橋からの風景。すごい場所だ。

ただでさえ人里離れた山の中にある博物館なのに、平日の昼間などはいつも、貸し切り状態。世間と切り離されたような土地の、物音一つしないがらんとした空間で、「鬼の正体とは一体なんだったんだろう…」などと想像を巡らせるのは、とても幸せな時間です。
「社会人なんだから平日の昼間は他にもっと考えることあるだろう…」と真っ当なことを言われると答えに困るのですが。

博物館内の仮面たち。右のセンター分け緑鬼がいい表情している。
世界の「鬼」たち。試しに被ったら二度と外せなそう。

でもほんと、鬼の正体は弥生人に追い出された縄文人という説や、酒呑童子とは、捨て童子(捨て子)だった説なんかを知るほど、西洋人にとっての悪魔のような善悪二元論にはおさまらない、日本人の価値観を改めて感じたりします。ちなみに福知山にお城を築いた明智光秀も長年歴史の悪役でしたが、近年は大河ドラマの影響もあってか再評価されてますね。

僕は若い頃、デビルマンに衝撃を受けて以降、この「悪側の物語」や「善悪の境界」のようなテーマにすごく惹かれるのですが、鬼滅の刃が大ヒットした要因の一つにも、悪役である鬼側の物語がちゃんと描かれていることがあると思います。

そういえば僕のすごく好きなキャッチコピーに、

ボクのお父さんは、桃太郎というやつに殺されました。
新聞広告クリエーティブコンテスト2013年度 最優秀賞

というのがありました。めでたしめでたしな昔話を鬼側の視点から切り取った、本当に素晴らしいコピーだと思います。

「鬼のまち」に、全国から約2000本のキャッチコピーが集まる。

コピーといえば先日、クリエイティブ専門誌「ブレーン 」にて、キャッチコピーの公募企画である「C-1グランプリ」の審査員をさせていただきました。

月刊ブレーン
広告・デザインをはじめ、ファッション、プロダクト、アートなど様々なクリエイティブが掲載される、歴史ある専門誌。福知山市民にとっての両丹日日新聞くらい、業界では知らない人のいない存在。C-1グランプリはその中の企画。

「C-1グランプリ」とは、審査員が出題テーマを決めて、プロアマ含む読者がキャッチコピーを投稿し、競う企画。せっかくなので、僕もご縁のある福知山をアピールしようと、テーマを「鬼伝説のまち、福知山のコピー」として出題してみました。

ブレーン表紙とバナー
誌面はこんな感じ。


正直、自分で出題しておきながら、この課題は難しいかも、と思っていました。なぜなら、海のまちには海があり、温泉のまちには温泉があるからそれを自慢しやすいけれど、鬼のまちには鬼がいないからです。

改めて「鬼は存在しない」なんて言い切ってしまうと、生粋の福知山人からはお叱りの声や豆を投げつけられるかもしれませんが、まだ福知山弱者の僕としては、ひとまず鬼はいないという前提で話を進めます。

内心、「応募が少なかったらどうしよう…」と思いながらの出題でしたが、蓋を開けれてみれば全国からなんと2000本近いコピーが集まりました。中には、コピーを書くに当たって、実際に3~4時間かけて福知山まで訪れた方もいたそうです。参加してくださった方々、改めてありがとうございました!

せっかくなので、集まったキャッチコピーを少しご紹介しますと…

歴史のある街はたくさんある。伝説のある街はなかなかない。
佐藤日登美さん(電通)

といった、他の地域とも差別化をはかる上手なコピーや、

鬼がきた。麒麟もきた。次は人間にきてほしい。
塚田智幸さん

という福知山も舞台となった大河ドラマ「麒麟がくる」にも触れつつ、素朴な心情を伝えるコピーなど、面白いものがたくさんありました。

また、

“路上の鬼伝説”酒呑童子 VS “ミスター騙し討ち”源頼光
「疑惑の勝利」と語り継がれる決戦の真相が、ここにある。
福知山市
山岸千玲さん(日清食品)

という、ちょっとどうかしてる勢いを感じるコピーも好きでした。

そして、はえあるグランプリに選ばせていただいたのは…

まちおこしを、人まかせにしない。
船越一郎さん(共同企画)

というコピーです。

一見、お役所的な良いことを言っているだけのようですが、
出題テーマと組み合わせると、

まちおこしを、人まかせにしない。

ー鬼伝説のまち、福知山ー

となる。

「人まかせにしない」などと、真面目な顔で言っておきながら、実は「まちおこしが鬼頼み」となっている構図に思わず笑ってしまい選んだのですが、時間が経つにつれて、広報やまちづくりに主体的に取り組む福知山市にとって、「まちおこしを、人まかせにしない。」という文字通りの意味が、いがいと合っているかもしれない、という気がしてきました。

受賞作をデザイン化してポスターに。

例えば、このC-1グランプリ。ふだんは紙面で優秀コピーを選び、賞を与えるだけなのですが、どうせなら実際にポスターとしてデザインして、駅などに掲出までしてみるのはどうかと、福知山市のシティプロモーション係に提案してみたところ、二つ返事でご快諾。

時間のない中、市役所内の承認取りや、印刷会社の手配、掲出場所の確保……もろもろ調整していただきました。

少しでも行政と仕事をしたことのある人であれば、このフレキシブルさはかなり凄いことだと思うのではないでしょうか。様々な広報活動を、代理店やPR会社など人まかせにせず取り組んできた福知山市ならではだ、と感じました。

審査風景。後ろの審査員たちも皆、真剣な表情で臨んでいる。


そして、でき上がったポスターがこちら。

デザインはなんと、副田高行さん。広告デザインの巨匠で、代表作が多すぎて紹介に困るのですが、吉永小百合さんのSHARPの広告や、木村拓哉さん・北野武さんが信長・秀吉に扮したTOYOTAの広告、最近ですと、宮﨑あおいさんのearth music&ecologyのグラフィックなど、数多くの作品を手掛けて来られた方です。

一風変わった鬼の絵は、葛飾北斎が描いたもの(画像提供:すみだ北斎美術館/ DNPartcom)。鬼なのになんだかかわいいですね。ずっと見ているとまるで福知山市役所にもいそうな親近感を抱きます。

ちなみにポスターは市内だけでなく、東京の永田町駅(総理官邸や国会議事堂などがある駅です)に2月5日まで掲出される予定。

永田町駅 都道府県会館行きの地下通路

まちおこしを、人まかせにしない人たち。

思えば、僕が福知山で出会った友人にも、「まちおこしを、人まかせにしない」人たちがたくさんいます。銀行跡地を自分たちでリノベーションして、クラフトビールの醸造場をつくってしまった。廃校を、過疎化する地域コミュニティとして再生する。文化拠点としての音楽堂をつくろうと奔走している……。皆、誰かまかせにせず、自分たちでまちを活性化させようとしている人たちです。

おそらく福知山は、東京や他のブランド力のある地域と比べて、際立った自慢の少ないまちです。それが逆に、人や環境に頼らず自分たちで地域をつくる気概のようなものを育むのかもしれません。

地域とはつまるところ、そこで暮らす人々の集合体。景勝地や政策やアクセスの良さなどだけがアピールポイントではないはず。結局は、人こそ、まちの魅力を左右するいちばんの要素だと僕は思います。

わかりやすい観光資源がなくても、麒麟が去っても、鬼がたとえいなくても、福知山は魅力的なまちだと思います。

公庄仁 コピーライターなど
主な仕事に、累計400万部超のベストセラー「ざんねんないきもの」シリーズなど。最近では広告だけでなく、スタートアップ企業のビジョン作成や300年以上続く酒蔵のブランディングなど、幅広いプロジェクトに携わる。

▼ポスター詳細はこちらhttps://www.city.fukuchiyama.lg.jp/site/promotion/53318.html
デザインを手がけた広告界の巨匠・副田高行さんの制作意図も掲載!

▼公庄さんの福知山暮らしに触れられる、こちらの記事もぜひ!


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