全国で多発するクマ事件…共生するために、ヒトはどう振る舞えば。獣害対策公務員がクマの目線で考える
●クマが起こした事件は「自然災害」
そもそも、今回のクマ立てこもり事件もそうですが、もっと身近なところでいうと道路上でのシカ等との接触事故、いわゆるロードキルと呼ばれるものなど、野生動物に起因する事件・事故はどういった取り扱いになるのでしょうか?
【答え】「自然災害」と同じ扱いです。
山に住んでいる野生動物というのは民法上所有者のいない「無主物」という扱いになります。無主物が引き起こした事件・事故に関しては特定の加害者が存在しません。地震などと同じですね。
台風や地震などの自然災害に対して、事前に備えて被害を軽減することはできても、災害の発生自体を抑制することはできません。
つまり、今回のクマ立てこもり事件は未然に防げたか?と聞かれた場合、難しかったと言わざるを得ません。
野生動物に起因する事件・事故についても災害と同様、いつどこで発生し、誰が巻き込まれるか分からないからこそ、日常的な備えが必要になります。
●クマの気持ちで考察してみると
今回のクマが建物に入ってきた理由については、本人に聞いてみないと分かりませんが、たまたま迷い込んだにしろ、好奇心から中に入ってしまったにしろ、その行動には悪意はありません。
結果的に大騒動になって、人間が大騒ぎをしたので怖い思いをしてしまったかもしれませんが、何事もなく早いタイミングで山に帰ることができたのはクマにとっても良かったと思います。
クマが建物内に侵入するリスクは、一般家庭においてもあります。
例えば、生ごみを家の外(敷地内)に放置していた場合。
たまたまそれを食べることが出来たクマは、その成功体験を覚えています。人間の何気ない行動が、クマに「家の近くには餌がある!」という学習に繋がってしまい、民家への執着が強くなってしまうかもしれません。
物置の中に収穫した柿を置いておいたら、クマが建物内に侵入して「扉の中には美味しい食べ物がある」ということを学習してしまい、空き家の扉を壊したり、蔵の扉を壊したりして中への侵入を繰り返し試みた…という怖い事例も発生しています。
●田舎あるある?それは無意識の餌付け行為!
「畑の肥やしになるから」と自分の家で出た生ごみや、規格外野菜などの収穫残ざんさをまとめて放置している光景。
田舎では普通に見られる光景ですが、それが野生動物の餌付けになってしまっているかもしれません…
人間にとってはごみかもしれませんが、クマに限らず、カラスやサル、アライグマなどの小動物などにとっては御馳走になる可能性があります。
昔からそうしてきたから…という何気ない行動も、集落付近に獣を近づける餌付け行為になってしまっているかもしれません!
農作物被害・生活環境被害を防ぐためにも、「野生動物にとって魅力の少ない集落づくり」を意識することが大切になります。
●柿の木を放置すると、クマの餌付けに?
たくさん実った柿の木も収穫せずに放置してしまった場合は、クマにとっては御馳走です。
大抵、昔植えた柿の木は玄関前など敷地内の収穫しやすい近い場所に植えられていることが多いので、クマは家の周りを餌場と学習してしまうことになるかもしれません。
クマに家の周りをうろつかれて怖いと思わない方はいないと思いますが、そういった方はクマによる被害者である一方で、無意識のうちにクマを餌付けしてしまっている可能性も考えられます。
これまでクマ関連の事件がニュースを騒がせても「東北地方のことでしょ?」と他人事として見ていた方々も、4月のクマ立てこもり事件をきっかけに実際に福知山でも起こる可能性のあることだという危機感を持つことができたと思います。
市域の約75%が森林である福知山市では、市内全域でクマの目撃情報が報告されていて、誰もがクマと遭遇する可能性や、今回のような事件が発生する可能性があります。
●クマ立てこもり事件を経て
今回の立てこもり事件の後、京都府・福知山市・警察による担当者会議を開きました。今回の一連の対応の課題点の洗い出しや、今後のクマ対応についての協議を実施するなど、クマ対応に対する関係機関の連携の取り組みもさらに進めています。
今回の経験や教訓を「何事もなくて良かった」で終わらせないよう、クマを集落に誘引してしまうような要因をなるべく減らし、人とクマとがトラブルなく共生できるような環境づくりのために、引き続き出前講座の実施などで啓発を続けていきたいと思います。
前編・後編合わせて6000字以上のレポートとなりましたが、最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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