鬼の博物館の館長がつづる「鬼と共に生きるまち」
皆さんこんにちは。今年で30周年を迎えた「日本の鬼の交流博物館」で館長をしている村上誠です。
博物館のある福知山市大江町は、昔から鬼と共に生きてきたまちです。
そんな私の生まれ故郷について、ご紹介します。
鬼との思い出
私と鬼との思い出は、小学校4年生までさかのぼります。
地元にある鬼伝説のスポット・鬼の足跡を初めて見ました。
その時は、大きな鬼が石を踏みつけてこんなに大きな穴をあけたんだと信じていました。
つまり当時の私は実際に鬼はいると思っていたわけです。
その足跡の主が、最強の鬼・酒吞童子(しゅてんどうじ)だと言われています。
福知山の酒呑童子伝説
酒呑童子伝説の冒頭の一節です。
福知山の北にそびえる大江山、そして三岳山周辺などには、酒呑童子の物語を今に伝える伝説が数多く残っています。
大江山に伝わる三大鬼退治伝説として、
●陸耳御笠の伝説 日子坐王の土蜘蛛退治
●英胡・軽足・土熊の伝説 麻呂子親王の鬼退治
●酒呑童子伝説 源頼光の鬼退治
があります。
伝説から千年後…
「鬼子(おにこ)」という言葉があります。
親に似ておらず、何をしでかすかわからない悪い子どものことを指す例として使われます。
ところが福知山市大江町では、子どものことを「げん鬼(き)っ子」と言ったり、保育園の名称も「げん鬼(き)保育園」です。
子どもたちのマラソン大会は「鬼っ子(おにっこ)マラソン」といいます。
このように、酒吞童子伝説から1000年が経った今でも、日常生活の中に「鬼」が根付いています。
しかしながらここまで「鬼」を定着させるには、旧大江町時代からの並々ならぬ努力がありました。
昭和、鬼のまちづくり
昭和48年(1973)、産業の要であった河守鉱山が廃坑に。疲弊する町をどうするかという時に、昔から伝わる大江山の鬼伝説を活用することになりました。
マンホールの蓋や町内の案内板など、いたるところに鬼の絵が使われはじめます。
当初は「縁起が悪い」という意見もあったそうですが、町民に「鬼」の認知度があがってくるとともに、鉱山が廃坑になった場所で鬼のイベントやシンボルが続々と発表され……
鬼による地域振興の拠点として30年前、平成5(1993)年に
日本の鬼の交流博物館が誕生しました。
菓子や地酒などにも大江山の鬼をモチーフにした物がたくさんつくられています。
鬼と未来を創るまち
福知山市大江町(旧大江町)は、平成18年(2006年)1月1日に、福知山市に編入合併されました。
大江町が福知山市に編入される以前の福知山市では、福知山商工会議所を中心として大江山の鬼伝説を活用し、昭和37年(1962年)から昭和61年(1986年)まで「春の福知山鬼まつり」が行われていました。
昭和62年(1987年)から福知山城の天守が再建されたので、「福知山お城まつり」と名称が変わり、ここでいったん大江山の鬼伝説の活用はなくなりました。
その後時代は令和になり、福知山市は2月2日を語呂合わせで「鬼鬼の日」として、2021年から積極的な鬼情報の発信を行っています。
また、当博物館所蔵の酒呑童子絵巻の画像を使い、大江山の鬼退治伝説を初めてアニメコンテンツ化したWEB動画「転生したら鬼退治を命じられました」を作成し、市YouTubeで公開しました。
さらに、福知山市出身の千原ジュニアさんが、福知山市の鬼伝説を巡ってくださった動画もYouTubeで公開されました。(私も少し出演しております)
このほか、福知山観光協会大江支部が京都府立大江高校の生徒のデザインによる鬼マスクを開発したり、鬼伝説が伝わる山城跡「鬼ケ城」の御城印など、新時代の鬼グッズがぞくぞくと誕生しました。
このように鬼を活用した取組、商品がどんどん生まれています。
福知山市には、明智光秀公、新しく誕生した鉄道館フクレルなど、福知山市を代表する観光の資産があります。
これらを点で終わらせず線としてつなぐことが大切だと考えます。
これらをつないでいける存在でありツールが「鬼」だと思います。
鬼に惹かれるクリエイターや子どもたち
当博物館には、多様な目的を持った方がお越しになります。
最近増えてきたのがアニメの作成や舞台等で鬼を素材にするので鬼について学びに来られる方々です。
そうした方は、自分の「鬼」を持ち
自分で鬼のキャラクターをデザインし
完全オリジナルな物をつくり
アニメやコミック、ゲームに発展させることを目指しておられます。
こちらは、鬼を愛する人が集まる「世界鬼学会」会員の香月つばささんが描いてくれた酒呑童子のイラストです。
見た瞬間「素晴らしい!」と思い、鬼博30周年を記念した「酒呑童子イラストコンテスト」のポスターに使わせていただきました。
また当博物館を見学に訪れてくれる小学生たちは、真顔で「鬼はいますか」と尋ねてくれます。
私は
「鬼は皆さんの心にいます。ふだんは角のない優しい鬼です。けんかをしたり怒りの気持ちが込み上げてくるとだんだん心にいる鬼が角を出してきます。皆さんは心で鬼をコントールしています」
と話すようにしています。
すると子どもたちは「わかりました」という表情でうなずいてくれます。
当博物館のホールの入り口に
「鬼とは何者なのか?・・・その答えを出すのはあなた自身である」
という言葉を掲示しております。
この言葉から、「鬼と共に生きる」意味を考えていただけましたら嬉しいです。
さいごに
「鬼」は「鬼力(きりょく)」を与えてくれます。
この「鬼力(きりょく)」を使いオール福知山で
「鬼と未来を創るまち」の拠点となる
日本の鬼の交流博物館を目指していきます。
▼ONIversal city project、進行中!