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サル対策をコツコツ10年続けたら、国から表彰された地域の話

みなさんこんにちは!京都府福知山市で獣害対策公務員をしているモチヅキです。今回は、私自身がすごいと思う地域のお話です!

過去の記事はコチラから☞「獣害対策公務員モチヅキ

10年以上前から、京都府福知山市にある川合かわい地域のみなさんが主体的に取り組んできた獣害対策、名付けて「モンキーキャッチプロジェクト」
それがこの度、農林水産省の令和5年度「鳥獣対策優良活動表彰」の被害防止部門(団体)にて、グランプリにあたる「農林水産大臣賞」を受賞しました!京都府初の快挙です!

モチヅキが川合地域に関わっているのは、福知山市役所で働き始めた3年前から。みなさんの獣害対策へのモチベーションや団結感に感銘を受け、国に推薦させていただきました。受賞を機に、このすごさをもっと多くの人に知ってほしい!と思い、noteを書いています。


のどかな地域の、深刻な悩み

三和町川合地区は人口約500人。福知山市の南東部、綾部市と京丹波町との市町境に位置しており、安産祈願で有名な大原神社があります。
自然豊かでのどかな地域ですが、毎年川合元気まつりが開催されたり、集落の女性グループが地元産の野菜を朝市で販売するなど、交流も盛んに行われています。

特産品はブドウと万願寺。とっても美味しいです!

「獣害」というのは多くの中山間地が抱える共通の課題ですが、川合地区にはシカ・イノシシに加えて、京都府北中部(綾部市、京丹波町そして川合地区)の広い範囲を移動するニホンザルの群れによる農作物被害も発生しています。

サル被害が他の獣害と違う点は、サルは昼間の明るい時間帯に行動するということ。
神出鬼没で畑にあらわれ、丹精込めた農作物をまさに収穫直前の一番美味しいタイミングで、農家さんの目の前で食い荒らしていきます。
しかも一口食べてはポイッ、別の野菜を一口食べてはポイッ…という食べ方を繰り返すといったように、農家さんの神経を逆なでする食べ方をします。

サルは美味しい部分だけを一口食べて捨てる「贅沢食べ」をすることが多く、「どうせ食べるなら全部食べてくれ!わしの作った野菜がまずいみたいやないか…」と意気消沈される農家さんがたくさんいらっしゃいます

家に帰ったら、サルが……

川合地区にサルが出没しはじめたのは今から20年ほど前。
一番サルの被害がひどい時期には、住民の方々いわく「家に帰ったら、窓から侵入したサルが仏壇に供えてあった果物を食べていた」「集落中の正月飾りの橙(みかん)がサルに食べられて、かじり跡がついていた」
…と今でこそ笑い話となっていますが、農作物以外に人間の生活環境にも被害が発生していました。

川合地区は、京都府の「移住促進特別区域」に指定されており、市営のお試し住宅があるなど昔から移住を推進してきた地域です。

そんな地域にとって、敷地内にまで入り込んでくるサル対策は何とかしなくてはいけない大きな課題!
…ということで、行政の支援体制も十分に整っていない10年以上も前から、「防除ぼうじょ」「追い払い」「捕獲」の3本柱の対策を地域ぐるみで実践してきました。

では具体的にどういった対策をしてきたのか…
簡単に説明していきたいと思います!

【対策① 防除】 おじろ用心棒

まず初めに取り組んだのが個々の畑をサルから守るための「防除対策」
シカ・イノシシであれば、ワイヤーメッシュの防除柵で防ぐことができますが、サルは簡単によじ登って侵入してしまいます。
そこでサルが入れないように工夫したのがこちらの「おじろ用心棒」。

構造はシンプルなので、材料のほとんどはホームセンターで入手可能!

通常のワイヤーメッシュ柵の上に電気柵を合体させた「複合柵」と呼ばれるものを、地域のみなさんで手づくり。
縦のパイプにも、横の電線にも電気が流れていますので、サルが侵入しようと手を触れると感電してしまいます。
ワイヤーメッシュ柵の物理的な防除に加えて、サルの高い学習能力を逆手に取り、電気柵で感電させて痛いということを学習させることで近づけなくさせるという効果があります。

【対策② 追い払い】 ロケット花火

次に取り組んだのが集落ぐるみでの「追い払い活動」
動物駆逐用煙火という火薬量増し増しの3連発ロケット花火(要資格)を用いて、サルを山の奥に追い返します。
動物の追い払い専用ということもあり、谷中に響くほどの非常に大きな音がします。猟銃の発射音に慣れているモチヅキでもびっくりするほどの音量…。

動物駆逐用煙火は市販のロケット花火と比べて火薬量が多いため、使用する場合は日本煙火協会の認めた講習会を受講する必要があります

誰かがサルを見つけたら、この駆逐用煙火を鳴らします。
その音を聞きつけた近所の方も、使える人は外に出てきて煙火を使ったり、金物を叩いて音を出したりして地域住民が連携して、それぞれが自分に出来る追い払いを行います。

【対策③ 捕獲】 地獄檻、ICTわな

そして、サルの群れの数を適正に保つための「捕獲対策」
川合地域では、農作物被害を許容できる範囲に収めながらサルとの共存を図るため、群れの数を30頭程度に維持できるよう捕獲活動を継続しています。

通称「地獄檻」と呼ばれる、入るのは簡単だけど一度入ったら出られない機構のわなや、サルが中に入るとスマホに通知が来て遠隔で監視や捕獲が可能な「ICTわな」など、サイズも機能も異なる様々なわなを用いて捕獲を実施しています。

ICTわな。スマホでリアルタイムの映像を見ながら捕獲ボタンを押せるため、サルがたくさん中に入ったタイミングを見計らって能動的な捕獲が可能に

捕獲したサルのうち、メスの成獣のサルには電波発信機付きの首輪を装着して群れに戻ってもらいます。

なぜメスなのか? オスは群れを離れて単独行動してしまうからです。常に群れで行動しているメスのうち、身体がある程度成長している大きな個体(小さい個体では成長して首輪が締まってしまう可能性があります!)に首輪を付けます。

首輪を付けられたサルは放獣してもらえるため、餌を食べに再度わなに入ることが多いです

この話をすると「せっかく苦労して捕まえたサルを、また逃がしてしまうなんて…」と言う方もいらっしゃいますが、この首輪付きのサルはいわばスパイ。発信機から出る電波によって、群れの位置を特定するためのおとりなのです。

この発信機から出る電波を地元の方々がアンテナをもって追いかけます!

ゲーム感覚で、サルを追跡

市域をまたいで広域で移動するサルの群れであるため、時には数十キロ離れた所まで追跡することも…
大きな負担となるであろうこの追跡作業も、地元の方はゲーム感覚で楽しみながら追いかけているとのことです。

把握したサルの位置情報はLINEグループ「モンキーキャッチプロジェクト」でリアルタイムに共有されます!

今では川合地区の住民だけでなく、近隣市町の方もグループに参加されています!

また、サルの群れの情報はサル位置情報共有システム「サルイチ」にも共有します。
サルイチに登録している人は、登録しているサルの群れが自分の地域(家の周りなど設定した距離)に近づくと、メールでサルの群れの接近をお知らせしてくれる機能があります。

これまでは肌間隔だったサルの移動経路がクラウド上に保管され、季節ごと・年ごとの傾向などの分析が可能に!

今までいつ被害にあうか分からなかったサルの移動状況を事前に把握できることで、心の準備ができます。
またこの位置情報データを蓄積したことにより、次にサルの群れがどこに向かうのか…?という行動予測を高い精度で行うことが出来るようになりました!
人間の知識と技術を総動員して賢いサルに対応しているのです!

【まとめ】この地域のすごいところ

こういったICT技術を効果的に活用しながら、地域主体でサル対策に取り組んできた成果が評価されたことは、非常に誇らしいことですし、他地域のモデルになると思います。

川合地区の更にすごいところは、獣害対策を「目的」としていないところにあります

獣害対策のゴールを農作物被害や生活環境被害の軽減に設定している地域が多い中、川合地域ではより大きなスケールで、獣害対策を地域づくりの手段として取り組んでいます。
「川合がいつまでも川合であるために」という基本理念のもと、SDGsの「11.住み続けられるまちづくり」という大きな目標の実現に向けて、地域活性化の取り組みを横断的に実施しています。サル対策も、そのピースのひとつ。

毎年の被害状況に一喜一憂するのではなく、獣害対策を「地域づくりの手段」として捉え、より上位の目標を設定していることが、長期的なモチベーションの維持につながっています!

また、川合地域では「楽しくないと続かない」という考えのもと、楽しみながら取り組むことが出来る獣害対策の取り組みも積極的に実施しています。

集落内で放置されてしまっていた柿のもぎ取り体験を地域のキャンプ場利用者に提供しました。柿の持ち主も、地域も、キャンプ場利用者も、誰もが三方良しという理想的な獣害対策の取り組みも実践されています。

地元で人手が無いなら外部の人を頼ればいいじゃない!という素晴らしい発想

獣害対策は、地域づくりの手段

マンパワー不足を課題とする中山間地域において、「獣害対策」を目的ではなく地域づくりの手段として捉える。そして、農家・非農家に関わらず、楽しみながら地域全体で取り組んでいく姿勢。

これは獣害対策に留まらず、今後の地域づくりのモデルケースになると思っています。川合地域のみなさん、農林水産大臣賞おめでとうございます!

次回は、霞が関で行われた表彰式の裏側についてお話しします!
つづく!

いざ!お江戸!


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