その人をただ、見ればいい。老舗そば屋のふたりが語る「性の多様性」【図書館×福知山の変トークセッションVol.2】レポート
2023年6月に、京都府福知山市の図書館でトークセッションが行われました。
テーマは、プライド月間や男女共同参画期間に合わせて「性の多様性」。さまざまな学校や地域でセクシャルマイノリティや移住に関する講演を行う、老舗そば屋「大江山鬼そば屋」のなゝ姫さんとまみさんに登壇いただきました。
そのトークの一部を、お届けします!
なんてキレイで不思議な人。男の人?女の人?
―― 最初の出会いと、第一印象についてお聞かせいただけますか?
まみさん:10年ほど前ですね。私は第五代女将として鬼そば屋で30年ほど働いていて、大学の学生さんたちが近くで合宿をされるということで、興味を持って見に行ってみたんです。そこに、学生さんを引率する立場で大学院生の姫(なゝ姫さん)がいました。
ひとり特に背が高くて、美人でふるまいがキレイで、舞いながら走っている人がいて。
まみさん:なんてキレイで不思議な人なんだろうと。男の人?女の人?と思ったのが一番最初です。その後、姫が息子(第六代店長)と友達になって、時々お店に来てくれるようになりました。
なゝ姫さん:あの頃お店には、そば粉で作ったドーナツとかが置いてあって。
まみさん:お店が暇だったからね、色々やってました。
なゝ姫さん:自分の研究(大学院生としてのフィールドワーク)の途中に、おやつを食べにいって。その後、お店にお手伝いとして入りまして、毎週、買い出しで町をふたりで回るようになったんです。その車のなかでいろんな話をして。そこから仲良くなりましたね。2015年だから、もう8年前ですか。
―― 最初の印象から、変わったところはありましたか?
まみさん:女性っぽい人やなって感じてて、紳士的なところもあって。軽トラのドアも開けてくれるんですよ(笑)。何をやっても私よりうまくて、ほーっと見とれる感じだし、両方を持っている人なんやなぁというのが段々とわかっていきました。
なゝ姫さん:段々となんですよね。最初からそうだと言ってたわけじゃなくて。ちなみに今回は「性の多様性」というトークテーマなので、わざと私たちは女性的、男性的とわかりやすい言葉を使っていますが、まみさんは普段、これが女のもの、これが男のもの、とかは一切おっしゃらないんです。
細かく分けるというより、その人をただ見ていればいいことなのかな、と
なゝ姫さん:男だから女だから、よそから来た人だから、とかじゃなくて、まみさんは私をどういう人かをちゃんと見てくれるところが、今の私たちの信頼関係につながっていると思います。
「性の多様性を受け入れよう」と言われますが、私たちからしたら、(LGBTQ+など)細かく分けて勉強するというよりも、その人をただ見ていればいいことなのかな、と。
それこそ性とか男女格差だけじゃなくて、宗教も、国も、人種も、貧富も、年齢もなにも関係なく、その人単体をちゃんと見つめることが大事なんだってことを、まみさんに教わった気がします。私だけでなくまわりのみんなに対してそうなんです。
ある意味、当たり前といったら当たり前のことなのかもしれませんね。でも救われましたし、嬉しかったです。
共同店長になってから、お客さんに「まみさん」と呼ばれるようになった
――おふたりで鬼そば屋をつづけていくことになった経緯を教えていただけますか?
まみさん:5年ほど前、息子が、経営難から店を閉めることを決めまして。そのとき、姫に「本当はもっと続けたいな…」と言ったら「一緒にしようか」と言ってくれたんです。えっ、いいんですか!という気持ちでした。
なゝ姫さん:まみさんやお店の人たちが大変そうでしたからね。労働時間は長いし、体力勝負だし。私は家政学が専門だったので、自分の知識でこの人たちを支えていけたらなと思って、鬼そば屋を継ぐことを決めました。
まみさん:「また来年も来るから!」と言って帰っていかはったお客さんの顔が浮かんできて。また来年も来てもらえる、と思えて、嬉しかったですね。
――おふたりが「共同店長」になったきっかけは?
なゝ姫さん:最初は、私だけが店長でした。ただ、やっぱり「店長」だけがすごい、って言われがちなんですよね。でも少し違うな、と思っていて……まみさんの方が私より経験が長いのに、よそからポンと来た私がすごい!と言われることに違和感がありました。そもそもまみさんがいなかったら、お店がないわけですから。
まみさんがお店に欠かせない存在だと伝えたくて、最初は「女将はまみさん」というのをずっと言いつづけていたんです。この“女将”っていう言葉も男女協働的にはどうかなと思うので、ひらがなにしようかなと思っているんですけどね。"おかみ"だと、いろんな意味がありますので。
それで結局、ふたりとも店長で、そのかわり責任も共同ね、としました。共同店長になってから、まみさんがお客さんに「まみさん」って呼ばれるようになったんですよ。それが私は嬉しいですね。
まみさん:20代のときからお客さんに「おかあさん!」と呼ばれていたので、名前で呼ばれるとドキッとします(笑)。
なゝ姫さん:そんな光景も、私からしたら嬉しいんです。
――まみさんは、アライ(ALLY)=セクシャルマイノリティを理解し支援する人 になりたいと思っている方へのアドバイスや、ご自身が心がけていることはありますか?
まみさん:私は今までアライっていう言葉を知らなかったのですが、そういう特別なものじゃないと思ってたので……どう言ったらいいのか難しいんですけど……。心がけていることとしては、なゝ姫さんってどんな人?と言われたら、こんな人!という感じで、男であろうと女であろうと、どんなものが好きで、どんな性格で、と、ひとりの人として答えます。
接するときは、私自身まだまだですが、相手の話を聞くことが大切だとつくづく思っております。
「そういえば私はこうやわぁ」と自分のほうに話を切り替えるんじゃなくて、相手の話を聞く。相手の好きなものを否定しない。「私は嫌いやけどなぁ」という言葉は、なしだと思います。
――ありがとうございます。おひとりずつ、今後に向けての抱負をお願いします!
まみさん:鬼そば屋の3代目のおばあちゃんが、94歳で亡くなったんですけど、亡くなる年まで厨房に立っておそばをゆがいてはったので、できたら私もあんな風になりたいな、と思います。
なゝ姫さん:あと30年あるね(笑)。
まみさん:だいぶ先やね(笑)。できるだけ長く、笑顔で店に立ちたいと思っております!
なゝ姫さん:まみさんにできるだけ長くお店に立ってもらいたいから、長くお店を残したいです。福知山市のシティプロモーション企画で、私は「変化人」(へんかびと)と言ってもらっていますが、伝統を残すというのは歴史の長い店の使命だと思うし、そのためには変わっていかないといけない。これからもそば屋や、創作活動だけでなく、自分を磨いて、まみさんの背中を追いかけてがんばっていこうと思っています。
[福知山の変] なゝ姫さんの、頭のなか
なゝ姫さんは、明智光秀が築いた福知山市を変えていく“変化人”(へんかびと)として、市のシティプロモーション企画「福知山の変」に登場いただいています。頭のなかを表現したビジュアルについて、解説していただきました!
なゝ姫さん:よく「合成?」と聞かれるんですが、全部どんぶりに乗るサイズのものを用意して、一発撮りしてもらいました。
なゝ姫さん:後ろに大きく刺さってるのは、そば切り包丁(①)です。いつもお店で使っています。
その前には、私がつくった架空の鉄道の模型(②)。鉄道が好きなんです。
創作活動も好きなので、自作の漫画(③)や小説(④)の豆本、ミニチュアのギター(⑤)。
あと車も好きなのでミニカー(⑥)に塗装したり、自分で縫った服(⑦)のレプリカ、コーヒーが好きなのでコーヒーの葉っぱ(⑧)も入っています。
お店の”のぼり”(⑨)のミニチュア版も刺さってますね。アールヌーボー調のイラストも描きました。
そして木べら(⑩)は私が子どものころ、祖母と一緒に料理をするときに使っていたものです。私の料理の原点で、かなり思い入れが深いです。
そして、これらを支えている青いどんぶり。第七代鬼そば屋の象徴で、中丹支援学校の生徒さんたちの手づくりなんです。
ちなみにこの首輪は、まみさんに買ってもらったものですね。喉仏って男性の象徴なので、それを隠す意味があります。服は、いつもお店で着ているのと同じもので、私と母がつくったものです。こんな感じで、私のものづくり好きが表現できたかなと思います。
[次回] テーマは「農業×ブランディング」「地域×クリエイティブ」
図書館×福知山の変トークセッションVol.3 7月29日(土)16:30~
トマト農家の小林加奈子さん、聞き手にドッコイセ!bizセンター長の西山周三さんをお迎えして、「農業女子、ブランディングにめざめる」をテーマにお話をお聞きします!
図書館×福知山の変トークセッションVol.4 8月25日(金)20:00~
キャンプライフクリエイターの岩城四知さん、聞き手にクリエイティブディレクター/コピーライターの公庄仁さんをお迎えして、「クリエイティブで、まちを変えていく」をテーマにお話をお聞きします!
どちらも現地観覧・Instagramライブ・関連イベントあり。詳しくは公式HPへ。
◆「福知山の変」とは、挑戦する人を応援するシティプロモーション企画です!詳しくは福知山市HPへ
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